2006年にWiredのクリスアンダーソンが世に出した「ロングテール理論」。10年以上経っても、まったく見劣りしないどころか、デジタルマーケティングを考える上では、必須の考え方です。本稿では、ロングテール理論がどのようにデジタルマーケティングと関わっているのかを考えていきましょう。
目次
ロングテールとは
20%の商品群で、80%の売り上げを立てている2:8の法則はよく知られています。コンビニの棚、本屋の本棚、スーパーの売り場など、デジタル時代前は、物理的に置ける商品の数が限られていました。従って、売れる上位の商品を中心に店頭に並べ、売れない商品は置かないことが常套手段でした。ところが、インターネット時代になり、デジタル空間に無限に商品を掲載できることになったことで、年に1つしか売れないような商品でも掲載可能となりました。この結果を縦軸に売上、横軸に商品種類を並べた時に上記のようなグラフになることから、しっぽ(テール)が長いロングテールと名づけられました。著者のクリスアンダーソンが、当時調査したAmazon.comやNetflixでこのような現象を発見したのです。
ロングテールとデジタルマーケティング
ロングテールという現象は、考えてみると色々な場面で当てはまります。
例えば、
- 検索キーワード別の検索回数
- 楽曲によるダウンロード数
- 映画・ドラマの視聴数
- ゲームのダウンロード数
- 企業別の社員募集数
- 疾患別の患者数
- などなど、様々な局面で思い浮かびます。
特に患者向けデジタルマーケティングという文脈で考えると、医療情報を検索する人たちのキーワード別検索回数は、重要なテーマになります。たとえば、「咳がとまらない」、「お腹が痛い」、「頭が痛い」などの症状は検索回数が多い一方、潰瘍性大腸炎、COPDといったあまり一般に知られていない病名の検索数は少ないです。ただし、検索する人の意図が違うため、症状の検索の場合だと「病気の可能性は何か」を知りたく、病名検索では、「病気のメカニズム、治療法は何か」を知りたいのです。
ロングテールの事例
患者向け医療情報メディアのいしゃまちの記事別アクセス数の実データです。確かに上位記事にアクセスが集中しますが、同時にロングテールに記事のアクセス数が広がっていることがわかります。特に健康医療情報の分野において、悩みは症状、疾患によって細分化されており、個別の悩みの解決のヒントになる情報提供ができるかが鍵を握っていることがあります。
一般のユーザーの方は、内科の中でも、呼吸器内科、循環器内科、糖尿病内科など専門分野別に分かれていることに気づかないことが多いです。症状が長引いてなかなか回復しない際にその分野の専門医にたどり着き、的確な診断、治療と繋がる導線ができることが理想です。
希少疾患の場合は、無症状のケースではなかなか本人や周囲が気づかなかったり、症状があっても疾患名と結びつくことが難しいです。だからこそ、疾患啓発に努め、ロングテールの悩みのニーズ(症状のキーワードなど)を拾い、悩む患者さんの可能性を広げる情報提供が重要になります。
まとめ
デジタルの世界の技術革新は極めて速いスピードで進んでいます。激動の世界の中でも、普遍的な理論「ロングテール理論」を体得しておくことは、デジタルマーケターとしては必須のスキルと言えます。自分たちが企画していることが、この理屈にあっているかどうかで施策の成否に関わってきます。今一度、2006年に発刊された名著ロングテール‐「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)を読み直してみてはいかがでしょうか。
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