株式会社メディウィルでは、株式会社電通デジタル トランスフォーメーション部門 マネージャー 登坂統彦氏を講師に招いたオンラインセミナー「共に創る、より良い治療体験デザイン~ペイシェントセントリシティはスローガンから行動へ~」を2024年10月30日に開催しました。当日の司会は弊社代表取締役の城間波留人が務めました。本記事ではその内容をまとめます。
この記事は以下のような方々におすすめです
- 医療業界におけるカスタマーエクスペリエンス(顧客体験、以下CX)に興味がある
- 患者さんを中心にした治療体験について理解を深めたい
- 具体例をもとに、医療業界内外で応用できるCXの考え方を学びたい
- 電通デジタルやメディウィルとの事業連携がしたい
目次
ポイント
- 医師、患者、医療、そしてライフサイエンス業界を取り巻く環境は激変し、加速度的な変化への対応が求められる時代です。製薬企業は新薬開発のROI(投資利益率)低下や市場競争激化などの課題に直面しています。そこで重要となるのが、従来の製品中心の戦略から脱却し、ヘルスケア・エコシステムを理解した上で、顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)を起点に自社製品・サービスの在り方を捉え直すことです。患者・医師の体験の向上を通じて競争優位性を確立することは、ひいては市場シェアやブランド価値を高めることに繋がります。
- CX向上のためには、顧客への共感から考え始める「デザイン思考」を取り入れることも重要です。患者と医師への共感に基づく感情的なつながりを重視した発想から治療体験全体をデザインすることで、高い顧客生涯価値(CLV)が期待できます。
- 製薬企業にとっての顧客は従来の医師にとどまらず、患者さんやその周囲の人へと広がりを見せています。患者と医師、それぞれのジャーニーを分断しないCXを目指しましょう。そして同業他社との差別化を図り競争優位性を確立することが、収益性の向上やコスト削減にまで寄与し、企業全体の競争力を強化します。
セミナー内容
はじめに
登坂: 本日のテーマ「ペイシェントセントリシティはスローガンから行動へ」にもあるように、ペイシェントセントリシティはもはや理想論やスローガンではなく、実際の行動を意味するものになっています。患者さんを取り巻く医療環境を深く理解すること、そして具体的な取り組みを実施することが重要です。患者さんの意見やニーズを反映させながら、医療従事者と共に治療や支援活動を継続的に改善することが、より良い治療体験を提供することにつながり、結果として真のペイシェントセントリシティが達成されると考えています。
01|加速:変化はコントロールできない
まず現在の医療環境は、多様な要素が交錯して加速度的に変化への対応が求められる時代になっています。医療環境を「医師」、「患者」、「医療業界」、「ライフサイエンス業界」の4つの要素に分けてみていきましょう。
医師
2024年4月から始まった医師の働き方改革(時間外労働の上限規制)によって、中小病院への医師派遣引き上げが懸念されていたなか、地域医療の維持のために大学病院などが医師派遣を続けています。しかしその結果、医師の労働時間が増加したり、大学病院自体が診療制限に陥ったりといった事態が生じており、大学病院はリソースも含めて、なかなか厳しい立場にあります。
厚生労働省のガイドラインで大学病院の先生たちの労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されていますので、大学病院の先生方の「労働時間にみなされない自己研鑽」に学会準備や論文執筆、後進育成などがすべて含まれてしまっています。先生方にとってみると本当に時間がない状況ですから、特に企業とのエンゲージメントの時間も効率化せざるを得なくなっています。
患者
希少疾患の患者さんは発症してから確定診断までが非常に長く、diagnostic odyssey(診断を求める終わりなき旅)とも呼ばれ、長い方で40年かかるケースもあります※1。さらに3人に1人が一度は別の疾患と診断されたあとに確定診断に至るため、自分が本当に患っている疾患の判明が遅れます※1。そして患者さんたちやそのご家族は、疾患の発症、検査、確定診断、治療開始を経て現在に至るまでに非常に様々な困難に直面しているというデータ※1もあります。
- ※1 出典:日本製薬工業協会難病・希少疾患タスクフォース(2023)「希少疾患患者さんの困りごとに関する調査」(最終閲覧日:2024年12月23日)
https://www.jpma.or.jp/shared/pdf/20230209.pdf
医療業界
医師の7割が病院DXという文脈においてAI技術に非常に期待しています※2。とはいえ「医師のために導入されているDX」の現状は電子カルテも含めた「医療情報連携システム」の割合が38.6%と最も多く※2、それに続くDXの導入率はほとんどが2割以下※2で、病院DXは道半ばと言えるでしょう。
- ※2 出典:ユビー株式会社(2024年)「医師の働き方改革に関する意識調査」(最終閲覧日:2024年12月23日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000096.000048083.html
一方でこの領域に参入してくるスタートアップ・ベンチャー企業は非常に増えてきていますが、例えばメンタルヘルスやフェムテック系など一部の領域では、ビジネスモデルがうまく成り立たず姿を消した企業もあります。またオンライン診療は伸びており、治験の領域にまで入ってきています。こういった企業が続々参入する中で、医療におけるいわゆるエコシステムが変わってきています。
ライフサイエンス業界
以前は新薬を市場に投入すると長期間独占できましたが、現在は競争の激化で革新的な薬でも市場優位性が非常に短命になりがちです。例えば同一薬剤でも上市の順番が製品価値に大きく影響します。特にがん治療薬といった分野だと効果が同程度であっても、1番目に市場に出た薬剤と2番目のものでは、その価値に倍以上の差が出ます。従って開発スピードが非常に重要と言えます。
そこで鍵となるのは治験の被験者の募集・獲得です。特に希少疾患においては取り合いになります。この被験者確保・獲得がうまくできないと治験の期間が伸びてしまい、市場投入が遅れる事態につながります。
開発競争が激化する中で、新薬創出のROIも全体的に低下しています。非常に難しい疾病やメカニズムに挑んでいくこともあって、新薬創出に当てるR&D費用も年々指数関数的に増えている一方、日本を含む多くの国で財政における医療費の部分も社会課題となっています。新薬へのアクセスが厳しくなるという薬価の締め付けも存在し、コストが上がることによって収益もある程度抑制されます。研究開発の生産性も非常に下がってきていて、効率化やコスト抑制といったプレッシャーが非常に高まっています。
以上のような医療のエコシステム全体を見据えた上で、これを維持してライフサイエンス業界の企業が自社として成長するためには、患者の治療体験を起点としたヘルスケア・エコシステムを理解する必要があると考えています。つまりこのエコシステムに自社の製品やサービスをどのようにつなげていくかがポイントになります。これまでの自社製品中心の考え方とは逆の、市場から見ていった結果として自社製品の普及につながる、というビジョンを描く必要があります。
02|競争:赤の女王効果からの脱出
ビジネスにおける「生存競争」を勝ち抜くためには常に進化し続けることが必要で、立ち止まるものは絶滅します。例えばライフサイエンス業界においては、病原菌に対する抗生物質の進化が挙げられます。これが業界の発展や創薬イノベーションの原動力であり、進化的競争があるから新しい技術・治療法が生まれていることは事実ですが、一方でマーケティングの世界においては競合レースに乗らないほうがいいとも考えられます。いわゆる「赤の女王効果(仮説)」と呼ばれるものです。
児童小説『鏡の国のアリス』(著者:ルイス・キャロル)に登場する赤の女王の有名なセリフに、「この国では、同じ場所に留まり続けるには走り続けるしかない。別の場所に行きたければ、少なくともその2倍の速さで走らなければならない」というものがあります。このセリフは先ほど紹介した常に進化し続ける必要性を示していますが、主人公のアリスだけは「速く走れば走るほど、同じ場所にとどまっているみたい」と気づきます。
これは企業が競合他社に打ち勝って売り上げを伸ばして利益を上げようと努力する、ビジネス競争の原理そのものを意味しています。競合他社に差をつけようと努力しても相手も同じことをしているため、気づけば常に同じ位置にいます。立ち止まってしまうと遅れをとりますから、より前に進むためには少なくとも2倍のスピードで走る必要があります。
同じコースを走っているジレンマ、つまり赤の女王効果から脱出するためには、コースは1つではないという発想のもと、異なる視点から競争したり、協力したりといった新たな道を切り開くことができるという考えが必要です。そのためには以下の4つの視点が重要です。
- Focus(市場機会に焦点を当てること)
- Agility(変化に迅速に対応すること)
- Business Model Innovation(異なる思考レベルで差別化すること)
- Valued Outcomes(提供価値を明確にし、影響力を高めること)
そしてライフサイエンス企業における価値向上に向けたDX戦略には、大きく次の3つが挙げられます。
1つ目が「競争優位性の確立」です。これは深い顧客理解とデータやAIなどを活用した迅速な意思決定により、顧客体験の向上を通じて市場シェアとブランド価値を高めていく、というものです。残りの2つは「革新的な治療法の開発」と「生産性の向上」です。これらは当然ながらずっと進めてきていることでしょう。
ここからは、マーケティングにおける競争優位性を確立する方法についてお話しします。システム導入やデータ基盤構築などのDX(デジタル・トランスフォーメーション)はあくまでも手段です。本来の目的はXD(エクスペリエンス・デザイン)、つまり体験をデザインすることではないかと思っています。
DXに関して重要なのは、「体験を作っていく」という意味合いでのCXを、DXを行う手前で「競争優位性の確立」のために実施することです。
03|体験:海辺のコンビニと梅おにぎり、そしてMRIの物語
CXとは「商品やサービスの購入や使用における顧客視点での体験」です。例えば「海辺のコンビニエンスストアで、釣り人向けに炎天下でも傷みにくい梅のおにぎりを多く仕入れたところ、よく売れた」という事例を用いると、以下のように説明できます。
- 顧客の心理を読み、行動を予測:海辺のコンビニでは釣りシーズンになると、釣り人が船上で食べるご飯を買いに、朝早くから来店することが予測されます。
- どんな体験を望むかを予測:天気予報は晴天で昼には気温もかなり上がる場合、釣り人は時間が経っても傷みにくい食べ物を求めることが予想されます。
- 売れ筋商品の仮説を立て、発注:「それなら梅のおにぎりが売れるのでは?」と仮説を立て、コンビニの発注者は梅のおにぎりを普段より多めに仕入れます。
- 結果を検証:来店した釣り人は陳列棚に大量に並ぶ梅のおにぎりと、船上での昼食に薦めるポップを見て、自分でも意識していなかった潜在ニーズに気づき、次々と梅おにぎりを買います。昼食を食べるときに「気温が高い炎天下の船上でも安心して美味しいおにぎりが食べられる」体験に満足します。その結果「あのコンビニは釣り人のことをよくわかっているいい店だ」という評価が生まれ、「これからもあのコンビニを利用しよう」と思ってもらえます。
この例で伝えたいのは、顧客ロイヤリティの発生を証明できていることです。顧客が満足する体験を提供したことが収益に結びついています。
デザイン思考アプローチ:GEヘルスケア社によるMRIのリデザイン
次に医療の領域において、いわゆる「デザイン思考」を使ったアプローチをご紹介します。2008年のGEヘルスケアさんにおけるMRIのリデザイン事例です。GEヘルスケア社のMRI設計者であるダグ・ディーツ氏は、ある日訪れた病院のMRI検査室の前で泣いている女の子を見かけます。非常に大きな音を出すMRIは、実は子供の患者さんに恐怖を与えており、聞くところによると小児患者の80%が鎮静剤を打った上でMRIを受けているそうです。
この事実を知って驚いたディーツ氏は、この問題を解決したいと考えスタンフォード大学Hasso Plattner Institute of Design(通称d.school)でデザイン思考を学びます。デザイン思考ではまず共感から発想を始めますから、共感に基づいた患者体験の再設計(リデザイン)を決意します。赤の女王効果に基づいた競合企業とのスペック競争から装置を再設計するのではなく、デザイン思考という人間中心のアプローチから体験の再設計に注力することにしたのです。そのために病院内の子供たちを観察し、共感することから始めました。
そこから生まれたのが、子供たちの恐怖を和らげるためのアドベンチャーシリーズというMRIです。宇宙船や海賊船をテーマにしたペイントを施し、MRI体験を恐怖から冒険に変えることを目指しました。再設計されたMRI体験によって、鎮静剤を必要とする小児患者の数がなんと80%から5%に減りました。麻酔科医の負担も大幅に軽くなり、1日に検査できる患者数が増え、病院経営のインパクトにもつながりました。患者満足度は90%にも上昇したと言われています。そして何よりもGEヘルスケアのMRIとそのサービスに注目が集まりました。
そして時が経った2024年の世界最大級の広告賞(カンヌライオンズ)ファーマ部門で、シーメンスが開発したMRIを受診する小児向けサービスが新規性を評価されグランプリを獲りました。皮肉なことに、16年の時を経てGEヘルスケア社の競合会社がこのアイデアを進化させてしまったのです。マグネティックストーリーズと名付けられたサービスで、アドベンチャーシリーズと同様患者さんの恐怖を何とかしたいという発想から、シーメンス社はオーディオブックを使ってアプローチしました。
体験を変えていくことは非常に素晴らしい取り組みです。CXを優先するかどうかに関わらず、顧客はあなたの会社を体験することを忘れてはいけません。カスタマージャーニーがパーソナライズされたジャーニーであることをきちんと理解した上で、医師や患者さんを人間として捉えること、感情的なつながりを確保することが重要だと言われています。
皆さんがカフェやオンラインサービスで味わう素晴らしい体験は偶然に起こったものではなく、サービス提供者があなたの好む体験を意図的に作り出しているのです。このためにすべてのタッチポイントで一貫した体験をデザインし、顧客との感情的なつながりを構築することが非常に大事だと言われています。それが高い顧客生涯価値(CLV)をもたらす秘訣になっています。
04|共感:顧客は誰なのか?
それではデザイン思考で重要とされる「共感」とは何か、そして顧客とは誰なのか考えていきましょう。例えば医学教育の父・オスラー先生の言葉に「患者がどんな病気にかかっているのかを知ることよりも、どんな患者が病気にかかっているのかを知ることのほうがはるかに重要だ」というものがあります。
例えば英語には”To put yourself in someone’s shoes”(相手の立場に立って物事を考える)という表現があります。英語におけるエンパシー(共感)は、わからないものを理解してみようとする知的な作業であり、相手の立場に立って想像してみる・理解するスキルです。「この人はどうしてこういう言動をとるのだろう」、「どういう背景があるのだろう?」などを理解する必要があります。
それでは、顧客は誰なのでしょうか? これまでは患者さんに薬を処方する権限がある医師でしたが、現在では患者さんやその他の医療従事者、患者さんの家族、介護者、ドナーの方なども含めるように定義がどんどん拡大しています。
次に、患者さんが望む医療、つまり患者さんが医療をデザインしたらどうなるのか考えてみましょう。ここで重要なのは専門的な医療知識だけではなく、患者さん自身の生活やニーズなどです。それらを反映した医療システムが求められているのではないかと思います。以下のような要素について考えていく必要があります。
- シンプルである
- 待ち時間が短縮できる
- 患者さんの意見を尊重してくれる
- 身近にある
- 患者さん自身が積極的に関与しやすい
- 社会的なつながりを持ったまま生活できる
- 低コストである
これに関する事例として、アメリカ・ボストンのローレンス・ジェネラル・ホスピタルという医療機関が面白い取り組みをしています。デザイン思考を取り入れて、病院内に部門横断で患者体験チームを作ったのです。患者体験をシュミレーションしていく中で患者さんの恐怖や混乱を理解してストレスが高まる瞬間を特定した上で、それらを改善するアイデア導出のためのワークショップを開催しました。これにより同施設では患者さんの体験、そして同時に従業員の体験についてもきちんと考えた上での、最適化の取り組みが行われています。
患者さんのペイシェントジャーニーやそれに基づくニーズを深く理解することはインサイトを行動可能なイニシアティブに変え、フリクション(あつれき、摩擦)を減らし、ギャップを埋めてアドヒアランスを高めることにつながります。上図左側のグラフにあるように、疾患を持つ人の76%が「教育は自分の健康とウェルビーイングのコントロールに役立つ」と回答しています。そして89%の患者さんは、処方された薬や処方される可能性のある薬も含めて積極的に調べており、そのうち61%は副作用の詳細を、47%が費用を調べていると言われています。
臨床試験においても患者体験を重視する製薬企業が増えてきており※3、13カ国・6000名を超える医師を対象とした調査でも「処方を決定する上で重要な割合は?」という質問に対し、約35%の先生方が「CXが処方を左右している」と答えています※4。ただ、日本ではまだCXはそれほど重要視されていないのが現状※4です。
- ※3 出典:DT-Consulting(2024)「The State Of Digital Excellence In The Global Pharmaceutical Industry, 2023: Clinical Operations」(最終閲覧日:2024年12月23日)
https://dt-consulting.com/wp-content/uploads/2024/04/DT-Consulting_The-State-of-Digital-Excellence-in-CT-FV.pdf - ※4 出典:DT-Consulting(2024)「The State Of Customer Experience In The Global Pharmaceutical Industry, 2024: HCP Interactions」(最終閲覧日:2024年12月23日)
https://dt-consulting.com/wp-content/uploads/2024/07/DT-Consulting_46_The-State-Of-Customer-Experience-In-The-Global-Pharmaceutical-Industry-2024-HCP-Interactions.pdf
一方で、日本国内では企業推奨度が上がるほど、その企業の薬剤処方意向が高まるという結果も出ています※5。さらに製薬会社ではブランドごとにCX機能のパフォーマンス評価も行われています。
- ※5 出典:メドピア株式会社/株式会社エモーションテック「製薬業界NPS®調査レポート2023 」(最終閲覧日:2024年12月23日)
https://emotion-tech.co.jp/whitepaper/2023/pharma-report2023/
05│進化:DXの狙いはCXによる差別化
「CXで売り上げが増えるのですか?」※6、「デザイン経営がリターンに見合うのでしょうか?」※7といった問いについて、「イエス」であることを示すデータも存在しています。デザイン経営(デザインへの投資)も含めたCX、つまりカスタマーエクスペリエンスをデザインすることが非常に効果的であると言えるでしょう。
- ※6 出典:McKinsey & Company(2023)「Experience-led growth: A new way to create value」(最終閲覧日:2024年12月23日)
https://www.mckinsey.com/capabilities/growth-marketing-and-sales/our-insights/experience-led-growth-a-new-way-to-create-value#/ - ※7 出典:経済産業省(2018年)「『デザイン経営』宣言」(最終閲覧日:2024年12月23日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kodo_design/pdf/001_s01_00.pdf
上図は医師に対するエンゲージメント・モデルに関して、CXを重視するとどうなるのか示しています。従来型(上のグラフ)とCXを重視したモデル(下のグラフ)を比較すると、対面時間は同程度でもその倍以上に他のチャネルが伸びているため、総エンゲージメント量が増えていると考えられます。患者さんについても、「素晴らしい体験をした後に行動を起こす可能性が高くなる」というデータがあり※8、CXが非常に重要であることが伺い知れます。
- ※8 出典:DT-Consulting(2022)「The State Of Customer Experience In The Pharmaceutical Industry, 2022: Patient Interactions」(最終閲覧日:2024年12月23日)
https://dt-consulting.com/wp-content/uploads/2022/05/DT_Consulting_Report-33_-The-State-Of-Customer-Experience-In-The-Pharmaceutical-Industry-2022-Patient-Interactions_May-2022.pdf
パーソナライズされた体験をデザインすることが重要な要素になっています。患者さんのライフエクスペリエンスや医師の診療ジャーニーを踏まえて、これら2つをシンクロさせていく必要があります。実は製薬企業による製品中心の戦略によって患者さんと医師のジャーニーを分断している可能性があり、患者さんだけでなく、医師の混乱も招いているおそれがあります。これらのジャーニーを分断するものを取り除き、このフリクションをコマーシャルモデルへ移行させる必要があると考えています。
CXは次のフロンティア(開拓地)と言えるのではないでしょうか。患者体験の向上によって差別化を図り、競争優位性を確立することで、収益性の向上やコスト削減にまで寄与し、企業全体の競争力が強化されます。パーソナリティされた顧客エンゲージメントに向けて前進するためには、チェンジマネジメントが必要です。これまでのブランド中心のセグメンテーションから、人間中心のセグメンテーションに変化していく、つまり「患者/医師を理解し、患者/医師と対話する方法」を再構築する必要があります。
そして上図左側のカスタマーニーズ(顧客ニーズ)と右側のブランドストラテジー(ブランド戦略)を結びつけるような、中央のエンゲージメントストラテジーを作ることによって、顧客中心のストーリーを描き、優れた治療体験がデザインできるのではないでしょうか。
最後に1本のショートムービーをご覧ください。これは患者さんの疾患や治療のことだけではなく、生活者としての患者さんの人生全体にきちんと目を向けていく、つまりペイシェントジャーニーだけでなく、生活者しての視点・人生すべてに目を向けることが必要だというメッセージにつながっているムービーです。
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