COLUMN 【前編】KDDI田口氏セミナーまとめ①~「KDDIのヘルスケア事業戦略~『auウェルネス』が目指す未来~」~

株式会社メディウィルでは、KDDI株式会社 サービス統括本部 シニアエキスパートの田口健太氏を招いたオンラインセミナー「KDDIのヘルスケア事業戦略~『auウェルネス』が目指す未来~」を2024年3月19日に開催しました。司会は弊社代表取締役の城間波留人が務めました。2回にわたり、当日の講演内容をまとめます(1/2)。

【後編】KDDI田口氏セミナーまとめ②~「KDDIのヘルスケア事業戦略~『auウェルネス』が目指す未来~」~はこちらから

本講演の趣旨

まず、本講演の趣旨についてご説明します。我々KDDIは通信事業を主とする会社ですがヘルスケア領域にも着目しており、この領域においてデジタルを中心とした新しい価値創造・ビジネスモデル構築が進んでいます。その一環で、2020年11月から「auウェルネス(※外部サイト)」というヘルスケアアプリの提供を開始しており、またスタートアップとの提携を通じたサービス開発のなかで、例えば2023年7月には「au薬局」を開業し調剤市場への参入も果たしました。本講演では、KDDIのヘルスケア領域における新しい取り組みについて、下記のアジェンダに則って解説します。

  1. 自己紹介/会社紹介
  2. ヘルスケア事業を取り巻く環境について
  3. KDDIによるヘルスケア事業について
  4. 総括(外部連携への期待)

1.自己紹介/会社紹介

改めまして、田口健太と申します。2006年3月に一橋大学大学院 経済学研究科応用経済専攻(専門:医療経済学)を修了し、同年4月に野村総合研究所に入社しました。その後13年間コンサルタントとして、ヘルスケア領域を中心に官公庁・民間企業で多数のプロジェクトに従事しました。そのなかで事業を作る側に回りたいと思い、2019年6月からKDDIに担当部長(ヘルスケア領域の事業開発責任を担うエキスパート)として参画しています。事業構想の策定段階からサービス立ち上げ・事業開発まで進めてきたプロジェクトについて、本講演ではお話しできればと思います。

続いてKDDIについてご紹介します。その前段として、事業会社のなかでもKDDIに入社した理由をお話します。「事業を作る側に回ってみたい。そのなかでも特に「個人」に着目した事業を」というこだわりが、自分のなかにありました。つまり、個人に対していかにデジタルを使ってヘルスケア領域の新しい価値を届けられるか考えた結果、インフラ系や個人接点が強い会社、なかでも携帯キャリアがちょうど合致する業種ではないかと思ったためです。

上図の円グラフは、弊社の売り上げ構成を表していますが、パーソナル(個人向け)が圧倒的に売り上げの大部分を占める会社です。ただ、後で少し触れますが、ビジネス(法人サイド向け)の売り上げも15%あり、このなかで製薬企業、医療機関、医療機器メーカーといった、医療系・メディカル・ヘルスケア関連のアカウントの方々との共創も行っています。

弊社は2024年3月現在、新しい中期経営計画(3か年)の2年目が終わる時期で、「サテライトグロース戦略」を進めています。サテライトグロース戦略とは、通信を中心に置きつつも、その周辺のサテライトでエネルギーや金融といった新しい領域もしっかり事業として作ることを掲げた戦略です。そのなかで実はヘルスケアも、中期経営計画の1年目である22年4月から明確に位置づけられました。

同月にはヘルスケア事業推進部(上図右下のオレンジで塗られた箇所)という部署を新設し、体制を強化しました。この後ご説明するauウェルネスなどは基本的に、このヘルスケア事業推進部が進めている取り組みです。私自身は左にあるパーソナル事業本部という個人向けの事業をする部署のなかでもサービス統括本部という、いわゆる通信端末以外の非通信領域のサービスを作る本部に属しています。サービス統括本部付のヘルスケアシニアエキスパートをしていますが、ヘルスケア事業推進部とのコラボレーションの上で基本的に事業を進めています。今回もこのコラボレーションを中心にご説明します。

2.ヘルスケア事業を取り巻く環境について

ここでは今回の本題である次のアジェンダ「3. KDDIによるヘルスケア事業について」をご紹介する前段として、どのようにヘルスケア事業を取り巻く環境を見ているのかという点と、何が課題で、その課題に対してどのような事業に取り組もうとしているのかという背景をご説明します。

ヘルスケア領域の本質的な課題とは、QCAの鼎立と考えています。QCAとは、質・量を意味するQuality&QuantityのQと、利用しやすさ(Accessibility)のA、そして費用・財源であるCostのCを合わせたものであり、それぞれが鼎立しなければいけないという本質的な課題が与えられているマーケットだと、ヘルスケア領域を捉えています。

上図にあるように、公的保険が財源として機能している市場ですので、高齢化の影響から質・量の需要が伸びて医療費が高騰していることがよしとはされていません。市場が拡大する一方で、公的保険でカバーできないのであればサステナブルではないといえます。いかにQとAとCをバランスよくさせるかが求められていると思います。

これは社会的な背景を受けた説明ですが、例えば今までは診療報酬改定による単価引き下げや、消費税増税による新しい財源確保などによってCをカバーしようという発想が出たり、最近は自己負担率の増加や窓口負担増による需要抑制策がとられることで、Aがまたにわかに脚光を浴びたりしています。こうしたCとAの議論が政策としても取られてきたと思っていますが、特に直近の大きな流れとしては、上図オレンジの高まるQの部分をいかに効率的に供給するのかという、地域包括ケアシステムが強く求められる流れを感じています。

地域包括ケアとは、中心に住み慣れた住まいを置いて、その周りで必要な時に医療(通院・入院)や介護、生活支援・介護予防を受けながら、なるべくその地で生きて死んでいく世界の実現のために、多職種が連携するなかで個人の需要を満たしながら効率的な供給体制を作ることを目指したものかと思います。本来効率化という概念は、一箇所に集中することを目指すものだと考えられます。しかし地域包括ケアシステムにおける効率化とは、「医療資源という比較的高い社会的コストがかかる人材ではなく、その周辺にある様々な地域の資源をうまく使いながら、社会的コストをかけない供給体制を構築していくこと」を指すと理解しています。

ただ、慢性疾患や高齢化に対応した医療にだけ取り組めばいいという概念ではなく、COVID-19(新型コロナウイルス感染症。以下コロナ)の流行があったなか、さらなる問題が顕在化したと我々は捉えています。上図では4つに分けていますが、医療機関・介護事業所等でのクラスター発生から感染リスク回避に伴う受診抑制があるなかで、医療機関の経営状態や、個人の健康管理を巡る環境も悪化したと感じています。

コロナは5類感染症に移行し、社会的には包摂していく流れになっていると思いますが、こういった感染症対策は新しい制度のなかでもしっかりカバーしなければいけない課題になりました。特に患者自身の受診抑制・健康管理の悪化といった行動によって、患者本人をとりまく環境の悪化が引き起こされた点は顕著な課題だといえます。

もともとQCAをいかに鼎立させるかについては、コロナ禍前はシンプルに供給側の改革中心でカバーして地域包括ケアを実現するという考えがメインでした。しかし、ウィズ/アフターコロナの時代においては、先ほど申し上げた供給側だけではなく、需要サイドもしっかりと効率化していく解決策をぶつけていかないと、最終的に持続可能なQCAの鼎立・バランスが難しいのではないかと、強く思い直しました。当然、地域包括ケアの構築自体は、高齢化が止まったわけではないので、引き続き行わなければいけません。

一方で、上図右下の赤枠で囲ってあるように、

  • 業務側のデジタル化によってさらに生産性を上げ、一定水準のQを安価なCで実現していくこと。
  • 個人/患者体験のデジタル化を通じて、一定水準のQをある意味制限されたAで実現していくこと、極論医療自体に触れることがなくても自身の健康水準や治療に貢献できる世界を作ること。

などを含めた需要・供給双方のデジタル化(DX)を実現していくことが、強く求められるようになったと捉えています。

それでは、個人・患者など需要側のDXとはどのようなことを想定すればいいのでしょうか? まず、医療機関や製薬・医療機器メーカーのような供給サイド側のプレイヤーのDXは、上図にあるようなキーワードが浮かびます。

一方で、個人・患者など需要側のDXはシンプルな話だと我々は見ています。需要側で求められるDXの理想形は、医療に至る手前の段階も含めた日常生活における予防から医療までをトータルで見る、患者体験の最適化を行うことだと考えています。例えば日常生活において、上図左側の健康(予防)領域では、日々の生活習慣(運動・食事)の状態が正しく理解できていないと昔から言われていますし、生活習慣が悪いと思って適切なものに変えようとしてもなかなか続かない、いわゆる意識変容・行動変容が起こっても行動継続がうまくいかないことなどが課題として挙げられます。

また上図中央にある未病(相談)の領域の課題として、検診結果の数字や症状などから「今のままではよくない」とわかっても、自らが正確に捉えたうえで正しい行動に移せるかと言われればまだ全然うまくいっていないのではという点に言及しています。病気のリスクでD判定と出ても、受診せずそこで終わってしまう人もいるかもしれません。また、「症状も出ているし辛いから受診しようとは思うものの、一般薬でも十分なのかどうかがわからない。そんなことを考えているうちに治ってきた気がするし、受診しなくてもいいか」といった、適切な行動まで至らない・適切な行動が分からない方も多いことでしょう。こういった方々もきちんとサポートしていくのが、需要DXのポイントのひとつかと思います。

さらに当然、医療を受診する際のDXも必要になってきます。対面診療は待ち時間などの機会費用がかかるうえに、感染リスクの不安も残るから医療機関の受診を控える方もいるかもしれませんし、治療中の服薬忘れや生活習慣の乱れから治療効果が最大化されないケースも考えられます。

このような健康(予防)から未病(相談)、医療までの領域を含めたトータルな最適化が強く求められます。その際に我々が重要だと認識しているのは、PHR(パーソナルヘルスレコード)に根ざした局面ごとの適切なデジタル(およびデジタル以外)の介入を通じて、患者さんの体験を最適化していく、促していくということです。シンプルな理想形ですし、皆さんも同様に捉えているとは思いますが、改めて考えをご紹介しました。

PHRに関連して、外的環境の話をします。まずこのPHRという単語自体が、今政策としてもかなり力を入れているキーワードだと思っています。特に、22年10月に医療DX推進本部が明確に作られ、そのなかで①全国医療情報プラットフォームの創設、②電子カルテ情報の標準化等、③診療報酬改定DX、の3点を挙げて工程表が策定されました。さらにその下にデジタル庁、厚生労働省、総務省、経済産業省などの関係する省庁が、この工程表をベースに様々な施策を打ち込んでいます。その施策の多くにPHRという単語が入っており、PHRを軸にすることを国が後押ししている現状だと思います。例えば経産省はPHRの事業者団体設立を通じて、業界サイドをしっかりと盛り上げる取り組みもしています。また厚生労働省やデジタル庁も、マイナポータルでのPHR参照・利活用をしっかりと整備することを掲げています。他にも上図一番下に独立して記載した内閣府については、データ利活用という観点では次世代医療基盤法の施工後5年の見直し規定に即して法律がちょうど変わったばかりです。こういったところで、データ利活用の促進も国として進めています。

そしてマイナポータルを介した公的なPHR基盤の整備が進み、健診・検診情報に加え、レセプト・処方箋情報や、電子カルテ情報(検査値等)が確認できるようになってきています。民間企業である我々も、こういった公的なインフラがしっかりできるなかで、民間サービスとしてどのように整備・連携させていくか検討していくことが前提になってきています。

同じような民間PHRサービスを見ると、例えば CureApp社(※外部サイト)によって実際に提供されている、PHRの利活用でプログラム医療機器の治療の効果を最大化させるサービスも出始めています。PHRによって治療の効果(アウトカム)の改善を図ることが需要DXのポイントのひとつであり、CureApp社のサービスはその一例だと考えています。我々もこういったDTx(デジタルセラピューティクス)の領域に対して、時間がかかる分野ではありますがKDDI総合研究所などと取り組んでいる状況です。

PHRに関してはアプリだけではなく様々なデバイスもあり、なかでもウェアラブルデバイスは重要なファクターになると見ています。我々の事業としても通信・端末という点では近しい領域なので、関心を持って取り組みたいと思っています。例えば上図では、 Apple Watchをプログラム医療機器として利用することで心電図測定ができるようになったという事例(※外部サイト)をご紹介しています。

「2.ヘルスケア事業を取り巻く環境」では、我々が事業に取り組む前段として、どういった外的な環境があり、これを我々がどのように捉えているのかについてご紹介しました。上図下側の供給側と上側の需要側双方のDXを実現しながら、ウィズ/アフターコロナ時代のQCAの鼎立を実現させることが社会的課題であり、我々もそこに貢献していきたいと思っています。その際には、上図中央のオレンジゾーンにある特に需要サイドへの貢献として、PHRデータを軸にしながら、左側の日常生活から右側の医療・介護体験までトータルで支援していくための様々な介入を可能とするデジタルサービスを提供していくことが必要です。上図中央にたくさん並んでいる小さいオレンジの四角形は、各フェーズで求められそうなサービス・機能・介入を例示的にキーワードとして書いています。データの可視化から解析・治療用アプリのようなDTx領域まで含めて、様々なサービスがデータ基盤の上に基づいて提供されていく世界を作っていかなければならないと考えていますし、それを前提として行動しているのがKDDIです。

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投稿日:2024年04月24日

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