COLUMN メディウィル城間講演まとめ(2024年2月開催)~「受診につなげる『いしゃまち病院検索サービス』の活用事例紹介」から~

弊社代表取締役の城間波留人が講師を務めるオンラインセミナー「受診につなげる『いしゃまち病院検索サービス』の活用事例紹介」を2024年2月15日に開催しました。本記事では、当日の講演内容から協和キリン様のケースと、講演後のQ&Aをピックアップしてまとめます。

「いしゃまち病院検索サービス」概要~受診につなげる疾患啓発デジタルマーケティングの設計~

受診につなげる疾患啓発のデジタルマーケティングを設計する際には、ターゲットである潜在的な推定患者さんが受診に至るまでにインターネット上での様々な行動の段階で、離脱・漏れが生じることに注意する必要があります。

そもそも疾患情報を認知してもらう過程は、以下のような段階にわかれています。

  • Webサイト(製薬企業様の場合は疾患啓発Webサイト)への集客
  • 疾患啓発Webサイトへ来た方に対する行動変容の促進
  • 患者さんに合った病院情報の提供

そして最終的な目的は、受診する患者さんの数を増やしていくことです。

そのための重要ポイントとして、以下の3点が考えられます。

  1. 行動変容につながる疾患啓発サイト設計や病院検索サービスを設置する
  2. 作ったサイトが誰にも見られてない状況では受診につながらないため、サイトにアクセスがあるのか(疾患啓発サイトへの集客)チェックし、改善する
  3. 潜在患者さんをその方に合った病院へ誘導するための使いやすい病院検索サービスを選定する

メディウィルは2018年に、疾患ごとにカスタマイズできる「いしゃまち病院検索サービス」を開発・リリースしました。主に製薬企業・医療機メーカー様向けたもので、現在では多くの企業様にご利用いただいております(直近では大塚製薬様に導入していただきました)。

本サービスは同年、キリンアクセラレータプログラム※1に採択いただきました。そのご縁で、キリンホールディングス(キリンHD)グループである協和キリン様をはじめ、製薬企業や医療機器メーカー様向けのワンストップのデジタルマーケティングソリューションを、特に疾患啓発という分野で提供するようになりました。ここからは協和キリン様の事例をご紹介いたします。

※1 キリンホールディングス株式会社による共創支援のもと、選出された企業が食品・ヘルスケア・メディカルなどの領域で新たなビジネスプランに挑み、健康的な未来を目指すプログラム。

製薬企業(協和キリン様)のいしゃまち病院検索サービス活用事例

協和キリン様は希少疾患であるFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の治療薬開発に取り組む中で、すでに診断された患者さんに治療薬を届けたい傍ら、まだ診断に至っていない多くの潜在患者さんに対する疾患認知と受診勧奨に関して長年課題を抱えていました。治療薬を2018年に海外で、2019年に日本で上市したちょうどそのタイミングでプロジェクトが始動しました。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の発症率は、日本ではおよそ2万人に1人といわれており、患者さんは国内に約6000人いると推定されていました。ただ、実際に治療を受けている患者さんはそのうちの10%以下と推定されており、いかに未受診の患者さんに疾患啓発・受診勧奨できるかという点が、そもそものプロジェクトの入り口でした。

メディウィルからご提案したのは、以下の2つのサイトを立ち上げ連携させることでした。

  1. 疾患啓発情報のプラットフォームとなるWebサイト「くるこつ広場
  2. 希少疾患に関して相談できる病院へガイドする「いしゃまち病院検索

ただ、サイトを立ち上げただけでは集客につながらないので、リスティング広告やディスプレイ広告等のデジタル広告に注力し、まずはしっかり集客することにしました。

またSEO(検索エンジンの最適化)についても、特に日本において実質95%ほどのシェアを占めるGoogleのSEO対策をしたうえで、集客できるコンテンツ作成を進めました。

あとは希少疾患の潜在患者さんへのリーチは非常に難度が高いプロジェクトですので、クライアントの皆様にも多くのご協力をいただきながら、以下のような活動を進めました。

  • 病院検索では、相談できる病院のデータ(病院検索)を毎月更新
  • 学会と連携したバナーの掲載
  • KOLの先生をご紹介いただき、インタビュー記事を掲載
  • MIRAI PORT(協和キリン様の関連メディア)でのプロジェクト紹介
  • 患者さんの体験談(他のベンダーが作成)を掲載
  • コールセンターの設置(デジタルのみならず、医療従事者へ電話相談できる仕組み作り)

くるこつ広場は情報プラットフォームという形で、活発に活用していただいている状況です。

その他に、親会社であるキリンHDの経営企画の方々にもご協力いただいて疾患啓発プロジェクト及びその取り組みを、キリンHDのWebサイト上で「社会との価値共創」の一例としてご紹介いただきました。

実際に患者さんが辿りうるペイシェントジャーニーとしては、以下のような流れが考えられます。まず患者さんがFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の症状のひとつである「骨折しやすい」というキーワードで検索すると、すぐにくるこつ広場へたどり着けるようなSEO対策をしております。サイトに辿り着いてコンテンツを読み「自分もこの疾患かもしれない」と思った患者さんは、そのままシームレスに病院検索にワンクリックで飛ぶことができます。そこから位置情報をもとに、再びワンクリックで近くの相談できる病院へガイドする設計になっています。また、病院検索で表示された医療機関リストから医療機関へ電話をかけたり、ホームページを閲覧したりできるようにもなっており、受診を後押ししています。

このプロジェクトはもうすぐ活動期間が4年を迎えますが、協和キリン様が経営戦略においてペイシェントアドボカシーを非常に重要なものと位置づけて取り組まれていることもあり、2023年5月に発表されたアニュアルレポート2022の中で、くるこつ広場の取り組みをご紹介いただきました。特に、くるこつ広場に設置した電話相談をきっかけに専門医を受診して確定診断に至った患者さんをしっかりと把握できるようになってきた点が、非常に大きな価値提供につながっていると考えています。

また、直近では協和キリン様が2023年12月に「くるこつ電話相談室」のフォローアップアンケートを実施し、2022年7月~2023年6月の1年間で約100件あった電話相談の中から5名の患者さんが専門医を受診し、そのうち2名の患者さんが確定診断に至ったという回答を得られたと発表されています。これは、希少疾患において非常に高い確率だと感じました。「Webサイトを閲覧した際に、病気の情報が自身の症状に類似していることから同じ病気だと考え、くるこつ電話相談室に連絡した」という回答があるように、希少疾患の患者さんの体験談や疾患情報などにアクセスできる機会は非常に少ないです。その点をしっかり情報発信していくことで、インターネット上のロングテールの部分でアクセスにつながり、そこから電話相談室へ相談したり、病院検索サービスを通じて受診したりといった行動変容が起きているのが現状です。

このようにくるこつ広場は、非常に活発にご活用していただいていて、日々情報がアップデートされているプラットフォームになっています。

メディウィルが現在ご支援しているのは、①疾患情報を認知するための集客→②行動変容につながる疾患啓発のWebサイト構築→③病院検索→④専門医につなげていく、という4つのフローです。今回は希少疾患中心のご案内でしたが、骨粗鬆症鼠径部ヘルニアといったいわゆるコモンディジーズの分野においても、疾患啓発は非常に有意義です。疾患ごとのペイシェントジャーニーの課題に関してどのポイントをどのように解決したいかによって、さまざまな施策が打てると考えています。

病院検索を導入するにあたっての注意点を1点挙げます。日本製薬工業協会(製薬協)のガイドラインには病院検索サイトの病院リストについて「自社製品の納入先のみの掲載はしない」と書かれています。この点は注意していただくようご案内しています。

疾患啓発を実施する理由

疾患啓発のプロジェクトに取り組む際は、「なぜ取り組むのか」という左脳的な合理的理由が重要なポイントになります。例えば、「疾患の受診率が低い」という課題からプロジェクトがスタートした場合、それぞれの企業が持っている製品のシェアや競合優位性について考え、受診率の向上がどのくらい自社製品の処方につながるのか検討する必要があります。

同時に「患者さん向けの疾患啓発活動は医療従事者向けとアプローチが異なるので、なかなか効果が見えない」という話をよく伺います。そのため、考えうる費用対効果(ROI)をしっかりと計算しておく必要があります。特に希少疾患は薬価が高いため、1人、2人、3人と患者さんが見つかり確定診断を受けて治療につながると、患者数が少なくとも非常に高いROIが期待できる施策だと実感しています。

こういったいわゆる左脳的な論理の話が入り口になりますが、疾患啓発はそれに留まらず、患者さんやご家族へダイレクトに適切な疾患情報を提供するという非常に高い社会的価値(右脳的要因)があります。そして医療従事者からも非常に高い評価を受けるプロジェクトです。「疾患認知向上につながる」という理由から、医療従事者の方々からも基本的には非常に好意的なコメントが多いと伺っています(患者と医療従事者からの共感)。

実際に、旭化成ファーマ様の「骨検」プロジェクトを立ち上げた大黒聡様に以前ご講演いただいた(弊社主催)際にも、まずは骨粗鬆症における受診率の低さという左脳的要因から検討を始めたという話題が出ました。そのうえで最終的には上層部の方たちにも、骨粗鬆症というQOLに大きく影響する疾患の啓発は、会社として取り組む必要がある大事なプロジェクトだとゴーサインを出していただく運びになり、「病気を理由に、やりたいことを諦める人を、ゼロにする」という企業ビジョンを創設する(右脳的要因)に至ったというお話をしていただきました。

キリンHD様の事例もまさにSDGsの貢献・会社ビジョンの実現につながるものであり、会社全体の方向性に合致している点で非常に高い付加価値が出てきているといえるでしょう。

Q&A

Q:相談できる病院・開業医は何をもってどのように選ばれているのでしょうか(診療科なのか、個人の専門領域なのか)? また、サイト内で医療機関の並び順はどのようになっていますか? それからドクターの異動や診療科・検査項目の追加といった変動はリアルタイムで修正されますか?

A:「〇〇について相談できる病院」のリストは各疾患に応じてクライアントの皆様と相談しながら決めており、大きく2つのパターンがあります。ひとつはスタンダードプランの場合で、診療科目という切り口で絞るケースです。例えば消化器内科を掲げている病院だけを出すといった非常にシンプルなものです。

もうひとつがカスタマイズプランで、今回ご紹介したような希少疾患の事例が該当します。治療実績や専門医在籍の有無といった一定の基準になりそうな点についてクライアントの皆様と議論し、基準を設けた後に許可を取っていただいてリストを作成していきます。専門医の氏名を表示するケースでドクターが異動・移籍された場合には、毎月のデータ更新時に情報を修正しています。

あとは病院の基本情報についても、基礎疾患の場合は大病院が多いものの、クリニックの新規開院も毎月のように全国で起きています。そこでメディウィルは独自に病院データを地方厚生局から自動的に収集するプログラムを作り、病院データの基本情報が定期的に更新されている状況にしています。

Q:医療機関のリストは、「ひとつの疾患領域につき1社」となるのでしょうか? 同じ疾患領域を持つ複数社がひとつのプラットフォームに集まると、非常に有意義な活用になるとイメージしました。

A:まさにご指摘いただいたように、いろいろなケースが考えられます。「複数社で取り組みたい」というお声掛けがあれば、もちろん我々としても前向きに検討していきたいです。今までそうした案件がなかったため、現時点では個々のクライアントの方々のお悩みに沿ったやり方で進めておりましたが、複数社で取り組む場合もやりようは十分にあると思っています。

Q:超希少疾患でペイシェントジャーニーが設計されていない場合でも、貴社のサービスを適用できるのでしょうか?

A:我々は医療従事者でなく、まして疾患のスペシャリストではありません。ペイシェントジャーニーの設計に関しては、該当疾患のスペシャリストの方々にご協力いただいたうえで、どの程度の希少疾患か考慮し、どういった特性があるか理解しながら疾患に応じて進めていく必要があります。特に症状に関する検索キーワードから疾患啓発サイトへのアクセスを集めていくことで、認知度向上に比較的つながりやすい傾向にあります。あとは、似た疾患・間違えられやすい疾患に関する情報・検索キーワードからサイトへのアクセスを集めていくことを考えていきます。そのため、ある程度は疾患の特性等を前提情報としていただけると、我々も実際の施策に落とし込みやすい実感があります。

日頃から非常に難しいと感じるのは、なかなかわかりやすい症状がないケースや、一般的な症状がたくさんある疾患の場合です。突破口を見つけていくことが本当に難しいのですが、何か打つ手がないか考えています。特に患者さんの体験談は非常に価値あるコンテンツだと常々感じていて、それは超希少疾患の場合でも当てはまります。1人の患者さんが体験した過去のストーリーがWeb上にコンテンツとしてあることで、疾患について検索している誰かが自分の症状・悩み・疾患に似た体験と出会い、「自分はもしかしたらこの疾患なのではないか」と気づくきっかけになります。インターネットの利点はそうした、どこかにいるたった1人にでも届けられる可能性があることですし、有益な情報をしっかり載せることが重要だと感じています。

少し長くなりましたが、お答えとしては超希少疾患だとしても十分に可能性はあるかと思います。現時点では打つ手がなくてお困りの方も多いでしょうから、ぜひ一度お声掛けいただきたいです。

Q:疾患啓発と連動して医薬品メーカーのMRはどのような活動をしているのでしょうか? 可能な範囲で教えてください。

A:非常に重要なご質問で、実際MRの方々にはご協力いただいています。先ほど病院検索のプランが大きく2つあるとお伝えしたうち特にカスタマイズ版の場合、病院情報を病院検索サービスに載せていいか許諾を取る際に、現場のMRの方々に中心となっていただいています。

実際に病院情報、特に診療科や専門医のお名前をサービスに掲載する場合は病院や医師の許可が必要です。協和キリン様の事例を挙げるとFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は小児、大人、TIO と3つの領域に専門が分かれています。これら3つのうち、どの疾患・対象まで外来で診察できるかという情報に関してもMRの方々にご協力いただきながら掲載許可を取っていただいています。

その他にも旭化成ファーマ様の骨粗鬆症に関する骨検プロジェクトにおいては、多くのパンフレットやリーフレット、ポスターといった紙媒体のチャネルでもマーケティング活動を行っており、現場のMRの方々にご協力いただいています。疾患啓発は全社的なサポートを得ながらクライアント企業のプレゼンスを高めていく重要な取り組みであり、MRの方々のサポートは常々非常に大事だと感じています。

Q:予防領域ではどういった取り組みをされていますか? また、どういった取り組みが考えられますか?

A:予防という観点では骨粗鬆症を対象としている骨検プロジェクトが一部当てはまるのではないでしょうか。骨粗鬆症ではまずDXA検査を受けていただくことが大切で、その検査は予防の意味合いがとても強いものです。旭化成ファーマの皆様の大きな悩み・現場の課題感として、重度の骨粗鬆症になった患者さんはその後もQOLがあまりよくない状況が続いてしまう点が挙がっていました。いかに早めに疾患に気づいていただくか、まさに予防活動に重点を置きたいという思いから、DXA検査を早めに受診してもらう取り組みが骨検という疾患啓発プロジェクトのコアでもあります。

もうひとつ、我々が力を入れたいと考えていて、ぜひお手伝いできる機会があればお声掛けいただきたいと思っているのが、ワクチンという分野です。ワクチンの接種率が低い疾患領域も多々あると伺っていますので、接種率向上を目指したとき疾患啓発コンテンツは非常に相性がいいですし、社会的意義も高いと感じています。また、自治体によってはワクチン接種の助成をしているケースもありますので、自治体の助成情報も併せて住民の方々に伝えていくことも非常に重要だと感じています。それらを組み合わせながら、「患者さんを最適な医療につなぐ」という我々の大きなパーパスに貢献できればと思っています。予防分野でも何かお手伝いできることや解決したいお悩みがあれば、まずはお声掛けいただきたいです。

Q:この取り組みは、希少疾患がメインで、比較的頻度の高い疾患の啓発需要はないのでしょうか?

A:コモンディジーズに関しても、先ほどお伝えした例の中だと、まさに骨粗鬆症が1000万人以上の患者さんがいる分野ですし、メディコン様と取り組んでいる鼠径部ヘルニアも外科領域で非常に多い疾患のひとつだと伺っていて、非常に頻度の高い疾患と認識しています。

また、EAファーマ様のケースで扱っている慢性便秘症も非常に多くの患者さんがいます。ただ慢性便秘症はお伺いする範囲では、病院受診が慢性便秘症の解決策になるという認知がそこまで広がっていない点が、大きな課題感のひとつとして挙げられていました。どうしても病院受診の前にOTC医薬品を使用したり、受診しないで対応したりする患者さんが多く、病院に行ってほしいと思われていることが特徴の疾患でした。そういった意味では、疾患啓発と非常に相性がいい分野でしょう。希少疾患の疾患啓発は極めて重要な取り組みだと思いますし、同時に頻度の高い疾患においても抱えている課題感によっては、疾患啓発の取り組みが非常に重要かつ有効な取り組みになりうると思っています。

今までのヘルステック業界は、左図のような横串で刺していく動きが大きいですが、一方で最近創業したヘルステックスタートアップを見ていると、患者を取り巻く独自性のある事業に焦点が当たっている会社が多いと思います。大手の事業方向と違う基軸を作ることができれば面白いのではないでしょうか。

以前、当時ノバルティスファーマ様でプロジェクトに従事されていた内海雄介さんの講演(弊社主催)の中で、国民病といわれる花粉症のうち特に重度のケース(重症花粉症)に有効な治療薬を会社で出された際、重症花粉症の患者さんに対する疾患啓発にも取り組まれてたとお話されていました。頻度の高い疾患であっても内側を分解していくとどういう課題感があるのか把握できますし、その内情に合った疾患啓発の打ち方をすることで極めて有効になる可能性があります。その点についても、ぜひいろいろと議論を重ねたいと思っています。

以下のリンクからフォームを入力することで続きをご覧いただけます

フォームを入力する

投稿日:2024年03月12日

デジタルマーケティングに関することなら
お気軽にご相談ください
Please feel free to contact us about digital marketing