弊社代表取締役の城間波留人が講師を務めるオンラインセミナー「受診に繋げるいしゃまち病院検索サービスの活用事例紹介」を2023年10月20日に開催しました。本記事では、当日の講演内容をまとめます。
目次
メディウィルのサービス紹介
メディウィルは2006年に創業した会社で、主に医療機関・クリニック向けのデジタルマーケティングソリューション事業からスタートし、これまで延べ1,000を超える案件に携わってきました。事業を通じてインターネット上における症状をはじめとした医療情報のニーズの高さを知り、2014年に医療情報に特化したWebメディア「いしゃまち 家庭の医療情報」を立ち上げ、ピーク時には2,000万PVを超えるメディアになりました。2018年には本日ご案内する疾患別にカスタマイズできる「いしゃまち病院検索サービス」をリリースし、同年開催されたキリンアクセラレータプログラム2018(※)に採択していただきました。この採択をきっかけとして、その後特に製薬企業・医療機器メーカー様向けの疾患啓発という分野で、デジタルマーケティングソリューション(集客に関するデジタル広告SEO、行動変容を目指したWebサイト構築や病院検索サービスなど)をワンストップで提供したり、個別にデジタル戦略を支援するなどしています。
※キリンホールディングス株式会社(キリンHD)が主催。「Make A Future With KIRIN」をキーワードに、健康的で豊かな未来の創造に向けて、起業家・事業家と協働するプログラム。
https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2018/1026_01.html(2023年11月8日閲覧)
我々はお客様と協力しながら、特に潜在患者さんの中から未受診の方を受診につなげられるようWeb上で取り組んでいます。受診につなげていくためのデジタルマーケティングを設計する上では、それぞれの段階で発生する「ユーザーの離脱」への対応が求められます。「疾患啓発等のWebサイトの集客をいかにサポートしていくか」「Webサイトを訪れたユーザーにどうアプローチすれば病院検索そして受診へとつなげられるか」―。まず重要なのは、行動変容につなげられるサイト設計であったり、最後の行動変容を一押しするために使いやすい病院検索サービスの設置です。もちろん、せっかくサービスを導入したところで集客がうまくいかなければ誰にも認知されないため、その点はしっかり改善及び対策していきます。
このような設計の概念を基にお客様とディスカッションしながら、患者さんを最適な医療につなげられるデジタルマーケティングをご支援しています。
メディウィル事例紹介①:旭化成ファーマ様、メディコン様、EAファーマ様、キッセイ薬品工業様
お客様事例をいくつかご紹介すると、旭化成ファーマ様が展開する骨粗鬆症の疾患啓発プロジェクト「骨検」の全般的なデジタルマーケティングを3年ほどご支援しています。骨粗鬆症の患者さんが潜在的に1,000万人以上いるといわれている中1)、リスクに気づいてない方々を早めの検査、特にDXA検査を受けていただくための疾患啓発活動です。お客様が抱える「(骨粗鬆症は)早期発見が非常に重要」という課題認識をプロジェクト化して、デジタルマーケティングを今なお推進しているケースです。
また、鼠径部ヘルニアの治療(オペ)で使用する器材を提供しているベクトン・ディッキンソングループの医療機器メーカー・メディコン様も支援しております。鼠径部ヘルニアは40代以上の男性に多くみられ、国内で年間約15万人が実際に治療を受けており2)、外科手術の中では非常に患者数が多いです。しかし、鼠径部ヘルニアの初期症状は痛みが少ない、(膨らみができる場所が陰部に近いこともあって)恥ずかしい、(治療が)怖いという理由などから受診に至らず放置しているケースがあり、お客様が解決したいポイントでした。自己判断をせず、まずは早めに外科もしくは消化器外科を受診してもらうことを支援すべく、疾患啓発サイト「そけいヘルニアノート」のリニューアルとともに病院検索サービスを提供し、適切な診療科への受診を促しています。
その他にも、慢性便秘症の情報提供しているEAファーマ様の疾患啓発サイト「イーベンnavi-便秘のお悩み解消サイト-」に、行動変容をもう一押しするための施策として、便秘の相談ができる医療機関を探せる「いしゃまち病院検索サービス」を導入していただいきました。キッセイ薬品工業様には、難病かつ希少疾患であるANCA関連血管炎に関するプロジェクトで我々の医療機関検索サービスを導入していただき、特にどこの診療科を受診すればいいかわからない患者さんがスムーズに医療機関を探せるようサポートさせていただいています。
メディウィル事例紹介②:協和キリン様
事例の中で詳しくお伝えしたいのが、協和キリン様の「くるこつ広場」という疾患啓発プロジェクトです。同社はFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症という希少疾患に関する製品を(2019年に)上市されましたが、上層部や担当の方々は(販売前から)長らく疾患認知の向上を課題として認識されていました。というのもこの希少疾患の患者さんは国内に推定6,000人前後いるといわれていますが、実際に診断・治療されている患者さんは10%にも満たないとされています3)。「残り9割以上の未受診の患者さんにどう認知・啓発していくか」という課題を解決するため、数々のディスカッション等の準備を経て我々は患者さん及びご家族向けにわかりやすく疾患解説したサイト、それから相談できる医療機関病院検索サービスを企画・提案し、リリース後もプロジェクトは進んでいます。
例えば潜在的な患者さんが「骨折しやすい」という症状で検索した時、疾患啓発サイトによって「このような病気がある」と知ることができます。そして、サイトでこの希少疾患を知って「病院に相談してみよう」と思った場合、(病院検索のボタンをクリックすれば)現在地検索などで簡単に自分がいる位置に近い病院のリスト一覧が表示されます。検索結果のページから病院のホームページにそのまま遷移できたり、掲載されている専門医の研究室の情報を見ることができたり、あるいは電話できたりします。こうした一連の動きをワンストップで、スマートフォンで簡単にアクセスできることが、現在提供している内容になります。
疾患啓発サイト等の集客に関しては、リスティング広告あるいはディスプレイ広告といったデジタル広告を活用してWebサイトに誘導しました。悩み等が顕在化した患者さんや潜在患者さんに気づきを与えるプロモーションを行いながら、サイトで啓発をし続けています。その他SEO(検索エンジンの最適化)も重要なテーマですので、潜在患者さん・未受診の患者さんが検索しそうなキーワードをしっかり対策し、ターゲットのキーワードでの上位表示を実現しているところです。
サイトへの集客以外にも、数々の活動を共に進めさせていただいています。
- 日々お客様と協力しながら、病院や専門医の情報等を毎月データベースに反映。
- 協和キリン様主導で学会と連携してもらい、くるこつ広場のバナーを学会ホームページに掲載してもらうよう依頼。
- KOLのコンテンツや患者さんの体験談をくるこつ広場に掲載。
- 協和キリン様が運営するWebメディア「MIRAI PORT」(ミライポート)(2023年11月末をもって閉鎖)でくるこつ広場を紹介。
- 「(病気について)事前に相談したい」というユーザーのニーズに応えるため、コールセンターを設置。
冒頭で申し上げたように、元々はキリンHDの企画「キリンアクセラレータプログラム2018」からご縁をいただいた経緯があります。グループ傘下の協和キリン様を通じて「CSV(Creating Shared Value=価値共創)」を掲げるキリンHDの重点課題の1つ「健康」で、くるこつ広場も紹介していただいています。また、協和キリン様側のアニュアルレポート2022の「ペイシェントアドボカシー/医薬品にとどまらない価値提供」というトピックで「くるこつ広場」の取り組みが掲載されていて、特に電話相談をきっかけに専門医を受診して確定診断に至った患者さんのこと、希少疾患に対する医療アクセス向上に寄与していることを記載していただきました。お客様に多大なるご協力をしていただきながら、くるこつ広場というプラットフォームがペイシェントアドボカシーに寄与してきています。
様々な事例を見てきましたが、(改めてまとめると)疾患認知の段階ではSEO対策やデジタル広告の活用でサポートしながら、疾患啓発のWebサイトへアクセスを集めていきます。そしてくるこつ広場など疾患啓発のプラットフォームで(潜在患者さんに)行動変容を促しつつ後押しするために、我々が提供する「受診につなげる『いしゃまち病院検索サービス』」があります。所在地から近いところで簡単に医療機関を探せる、情報へ簡単にアクセスできる点を非常に重視したサービスになっており、専門医へしっかり繋げていくことで我々のミッション「患者さんを最適な医療に繋ぐ」を実現しています。
サービスを導入する際の注意点として昔からある話ですが、日本製薬工業協会のガイドラインがあります。そこでは病院検索サービスを採用したサイトに掲載する病院について、自社製品の納入先のみ掲載することがないよう記載されているため、注意していただきたいです。我々も随時ガイドラインに沿った形で提供しておりますので、その点はご安心していただければと思います。
いしゃまち病院検索サービス×オープンデータ活用事例
これまで製薬企業・医療機器メーカー様向けの病院検索サービスの活用について説明してきましたが、最後に新型コロナウイルス感染症(コロナ)禍に自治体のオープンデータ(※)といしゃまち病院検索を掛け合わせて提供したサービスがありますので、こちらもご案内いたします。
※オープンデータについてはこちらをご参照ください。
コロナに関しては、2022年2月下旬に東京都の医師会が発熱外来の医療機関リストを公開したと報じられました。発熱してコロナが疑われる患者さんがどのようなペイシェントジャーニーをたどるのか我々で考えてみたところ、初期の段階では少し様子を見るために自宅で療養し、症状がなかなか改善しない方でかかりつけ医がいる場合は電話して受診するという流れが見えました。一方でかかりつけ医がいない患者さんはどうしているかというと、医療機関についてまずGoogleなどで検索します。すると、発熱外来に関して情報提供している市区町村のホームページや、近くの病院のWebサイトが検索結果に表示されます。(発熱した患者さんが)市区町村のホームページに記載されている連絡先に相談すると、担当者から近い病院をいくつか口頭で紹介されますが、改めて病院の情報を知るために検索し直す必要があり、そこからようやく該当の医療機関に電話して(受け入れてくれれば)受診するという流れが浮かびました。このペイシェントジャーニーが新たなサービスを提供するきっかけ、そもそものスタートになりました。
かかりつけ医がいない発熱した患者さんの体調等を考えた時に、複数回検索するプロセスは非常に負荷が掛かると感じました。このプロセスをできる限り簡素にしてスムーズに発熱外来を受診できる導線を作ることが、我々のチャレンジでした。そして2022年7月、東京都がオープンデータとして公開していた発熱外来のリストと我々のいしゃまち病院検索サービスとをかけ合わせてリリースしたのが、「東京都発熱外来病院検索サービス」です。
発熱してコロナが疑われる場合、Googleでご自身が住んでいらっしゃる地区と発熱外来、例えば足立区の方であれば「足立区 発熱外来」と検索するケースが非常に多いです。実際に「足立区 発熱外来」で検索してみると、上位表示されている「東京都足立区の発熱外来を実施している医療機関一覧」が我々の提供する病院検索サービスになります(※)。このページを開くと一覧のリストが表示されるだけでなく、地図から近くの医療機関を探せて電話までできるサービス設計にしています。リリース後の約1年3ヶ月で440万PV、78万人のユーザーに使っていただき、さらに電話まで行動することがユーザーの特徴で、21万回の電話ボタンのクリックにつなげることができました。本サービスを利用した患者さんに「受診する医療機関を見つけられたか」Webアンケートで尋ねたところ、6割以上の方から「見つけることができた」と回答していただきました。
※検索結果の順位に関しては、変動する可能性があります。
リリース後のアクセス解析を見てみると、実際の患者数と概ね一致することが確認できました。2022年7月ごろは(リリース直後で)本サービスの認知度がそこまで高くない中でも第7波と思われる波が少しあり、非常に多くの方々に使っていただいたのが第8波の時期でした。(しり上がりにアクセスが伸びている時期は)直近の第9波と思われ、コロナの患者さんがすごく増えていた時期でした。足元ではサービスへのアクセスが減っているので収束したと予想していましたが、実際に東京都の新型コロナ平均患者数を見ると患者数が減っていました。こうしたことから、アクセス解析によってトレンドが予測できることを発見できました。
本サービスは東京都デジタルサービス局の方々に多大なるご支援をいただきながら進め、リリース後は東京都のオープンデータ利活用事例に掲載していただきました。その上2023年9月12日開催の第6回東京都オープンデータ・ラウンドテーブルにプレゼンターとして招待され、デジタル庁をはじめ東京都デジタルサービス局、都内の各自治体でオープンデータを推進している担当者の方々(オンライン参加含む)の前で「東京都発熱外来病院検索サービス」の事例を発表する機会をいただきました。
病院検索サービスを進めるにあたり、地方厚生局の公開データをもとに最近開業したクリニックを反映するなどデータベースを毎月メンテナンスし、できる限りリアルな医療機関の情報を整備してきました。そうして構築したデータベースを一括でダウンロードできるシンプルなサービスを提供すべく、最近新たに「いしゃまち病院データベース」をリリースしました。他には先ほど紹介した「東京都発熱外来病院検索サービス」に関連して、足元で進めているプロジェクトとして、「帯状疱疹ワクチンの助成を受けられる医療機関検索サービス」をスタートしました。弊社は、ワクチンの助成を受けられる情報が各市区町村のWebサイト等に掲載されていても情報にアクセスしづらい構造になっているケースがあり、市民の方々も助成の事実自体知らないことを課題として認識しています。ワクチン助成に関する情報をしっかり整備し、わかりやすくかつ使いやすい形で市民に届けていきます。
まとめ
実際にデジタル上でペイシェントジャーニーの設計を考える時には、それぞれの段階で生じる漏れを改善して受診率を向上させるところが大事なポイントです。製薬企業・医療機器メーカー様向けの疾患啓発においては、お客様との取引を通して学んだ「疾患ごとに特徴があり、それぞれペイシェントジャーニーがある」ことを、サイト及び病院検索サービスの設計に生かしてご提供しています。本日は特に希少疾患の潜在患者さんに訴求する事例をご紹介しましたが、希少疾患の患者さんにリーチするのは非常に難しいプロジェクトだと弊社メンバー一同感じております。だからこそ、できる限りいろいろな場で認知・訴求できる施策を打つことが大変重要です。
最後にご紹介したオープンデータの活用事例については、いかにUI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)にこだわって制作できるかで、本当に使われるサービスになるか、あるいは埋もれて誰も知らないようなサービスになるのかが左右されると改めて実感しました。疾患に応じたペイシェントジャーニーは、アクセス検証を繰り返して「どこが一番困っているのか」「どこを改善していきたいのか」把握・改善していくことで、有用なサービスになります。今は、非常に貴重で利便性が高い一方で「なかなかアクセスしづらい」「見つけづらい」「分かりづらい」といった問題点が多く見受けられる自治体など公的機関が出している情報を、わかりやすく提供して患者さんを最適な医療につなげていくことを目指しています。
1) Yoshimura N, Iidaka T, Horii C, Muraki S, Oka H, Kawaguchi H, Nakamura K, Akune T, Tanaka S:Trends in osteoporosis prevalence over a 10-year period in Japan: The ROAD study 2005–2015. J Bone Miner Metab 40(5): 829-838, 2022
2)厚生労働省 第5回NDBオープンデータ(2018年4月~2019年3月診療分)
3)Endo I et al., EndocrJ., 2015、関係者からのヒアリングなどを基に推定