株式会社ベルシステム24と株式会社メディウィルはオンラインセミナー「ペイシェントジャーニーに添った※1疾患啓発とPSPワンストップソリューションの可能性」を2023年5月26日に共催しました。講師は、株式会社ベルシステム24 第1事業本部 営業企画部 マネージャーである塚前昌利氏と、株式会社メディウィル 代表取締役である城間波留人が務めました。本記事では当日の講演から、メディウィルの発表パートをまとめます。
※1 メディウィルでは、ペイシェントジャーニーにまつわる活動のなかで患者さんの心にも寄り添いたいという思いを込めて、「沿う」ではなく「添う」の漢字を使用しております。
第二部 「ベルシステム24が考えるPatient Centricity~PSPプログラムを中心に~」はこちらから
目次
はじめに
城間:まず、本セミナーの企画背景を説明します。ペイシェントジャーニーにおける患者さんの一連の行動(「認知→情報収集→受診・検査→診断・治療→評価・フォロー」)の中で、我々は特に疾患啓発の分野でクライアント企業様を多くお手伝いしています。一方で、受診後・治療開始後に関しては、メディウィル一社ではなかなかお役に立てる機会が少ないと感じていました。
そこでベルシステム24様が今注力しているペイシェントサポートプログラム(PSP)と協働することで、ソリューションにさらなる大きな付加価値を提供できるのではないかという議論を重ね、今回の企画に至りました。
第一部 ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発におけるデジタルマーケティング活用事例紹介
(講師:株式会社メディウィル 代表取締役 城間波留人)
メディウィルについて
第一部では疾患啓発についてお話しします。
はじめに、メディウィルの紹介をいたします。弊社は2006年に創業し、当初は医療機関、特に歯科業界を中心としたデジタルマーケティングを担い、Webサイトの企画・制作・運営、デジタル広告の運営などを通して、患者さんを医療機関につなぐお手伝いをしてきました。現在もこの事業は継続していて、1000案件以上の支援をしております。
この事業を通じて、インターネット上では患者さんの症状、疾患、治療方法などの健康医療情報に対する検索ニーズが非常に多いことがわかりました。こうしたニーズを満たすため、かつて各家庭に一冊はあった「家庭の医学」のオンライン版を意識したWebメディア「いしゃまち 家庭の医療情報」を2014年に立ち上げました。同サイトは、ピーク時には月間2000万PVを超えるアクセスを実現しました。
さらに2018年には、症状から検索して疾患の情報収集をした患者さんを適切な病院にガイドすべく、「いしゃまち病院検索」をリリースしました。この「いしゃまち病院検索」が同年開催のキリンアクセラレータープログラム※2に採択いただいたことをきっかけに、特に製薬・医療機器業界を疾患啓発の分野で支援する機会が増えていきました。
※2 キリンホールディングス株式会社による共創支援のもと、選出された企業が食品・ヘルスケア・メディカルなどの領域で新たなビジネスプランに挑み、健康的な未来を目指すプログラム。
現在は製薬企業・医療機器メーカー様向けに、①疾患啓発を推進するデジタルマーケティングソリューションをワンストップで提供したり(上記左図)、②個別のニーズにお応えする形でデジタル戦略支援やデジタル広告運用、SEO、Webサイト構築をしたりしています(上記右図)。継続してご支援している①の導入事例には、旭化成ファーマ様の「骨検-骨にも検診プロジェクト-」における骨粗鬆症の疾患啓発、KIRINアクセラレータープログラムから非常にお世話になっているキリングループ・協和キリン様のFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症という希少疾患の疾患啓発プロジェクト、メディコン様の鼠径部ヘルニアの疾患啓発サイト「そけいヘルニアノート」などがあります。②では、富士製薬工業様が提供する女性のためのモバイルアプリ「LiLuLa」のダウンロードがなかなか進まないという課題に対して、Webサイトを立ち上げてWebからの集客支援、ソノヴァ・ジャパン様は新製品のデジタルプロモーション支援、日本ベクトン・ディッキンソン様についてはコロナ(新型コロナウイルス感染症)禍の期間にデジタルマーケティング強化の戦略立案および実行支援をいたしました。
メディウィルのサービスでポイントとなるのは、インターネット上での検索行為やSNSでの患者さんの行動に対し、どのように働きかければ潜在患者さんの適切な受診につながるかという点です。様々な段階で必ず生じる潜在患者さんの漏れや離脱に対してひとつひとつのポイントを押さえて改善の施策を打つことで、最終的な受診につながるよう目指して設計しています。
特に希少疾患でよくあるのは、そもそも疾患自体が知られていないケースです。そういった場合は検索エンジンの最適化、SEO、デジタル広告などを駆使して集客をしっかり行うことが大切になります。また、実際に潜在患者さんがWebサイトにアクセスした後には、サイト上で適切な行動変容をしてもらうための施策が展開されているのかも、非常に重要な要素です。その上で最終的に重要なアクションとなるのが、潜在患者さんを適切な病院につなげていくことです。
今日は特に病院検索サービスにフォーカスし、事例を交えてご紹介していきます。2022年にメディウィルでは、発熱してコロナが疑われるときに「どこの病院を受診できるかわからない」という潜在的なニーズの多さを実感しました。特に若年層の場合、かかりつけ医がいないケースがおよそ6割※3です。患者さんが発熱したときにできるだけ早く適切な病院に受診するための後押しができないか考え、このプロジェクトを発足させました。
※3 内閣府「令和元年度 世論調査」より。
ユーザー調査を複数回実施して見えてきたのが、発熱した患者さんの場合、まずは自宅で様子を見るケースが多いことです。その後なかなか発熱が治まらないときは、かかりつけ医がいればそのまま電話して受診できるか確認するという流れが、行動パターンのひとつとして挙げられます。
かかりつけ医がいない、もしくはかかりつけ医が発熱外来を開設していない場合には、Googleなどで他の医療機関を検索して受診する行動が見られます。例えば、検索ニーズが多かったキーワードである「○○区 発熱外来」をGoogleで検索すると、市区町村や近隣病院のホームページが検索結果として出てきます。
実際に市区町村のホームページにたどり着いた方からは、相談窓口に電話する行動が非常に多く見られました。ただ、相談窓口に電話しても担当者から近い病院を案内されるため、再度その病院名を検索することになります。ここでようやく近隣病院に電話して、実際に発熱患者を受け入れているかどうかが判明し、受診に至ります。これがユーザー調査で見えてきたペイシェントフローです。
この発熱している患者さんがたどるフロー(上図の赤破線で囲んだ箇所)をできるだけ短時間でスムーズにできないかが、プロジェクトのひとつのテーマでした。Google検索した瞬間に発熱外来の検索結果一覧がすぐ出るようにした上で、すぐに電話をかけられる状況を作ることが今回のポイントです。
実際の流れを説明しますと、Googleで例えば「足立区 発熱外来」で検索したとします。すると、足立区近隣の医療機関一覧が掲載されている弊社の病院検索サイトが上位表示されます。このサイトは下記の特長があります。
- 病院一覧からすぐに受診先候補を選べる。
- マップに移動すればさらにエリア詳細を検索して、より自宅から近い医療機関を見つけられる。
- 地図上で医療機関を選択して詳細を見ればそこに電話番号も記載されており、スマートフォンならばタップするだけでスムーズに電話をかけられる。
2022年7月末のリリースから約6カ月半後に行ったアクセス解析によると、207万PV、延べ30万人以上の方に利用いただき、電話のコールクリック12万回につなげることができました。発熱外来のニーズが非常に多い時期に、ちょうどそのニーズを満たせるサービスとソリューションを出すことができたと考えています。実際にサービスを利用した患者さんにオンラインでアンケートをとったところ、6割以上の方が受診する医療機関を見つけられたという回答を得られました。
こうした取り組みが奏功したことから、自治体が公開しているオープンデータ※4を活用した病院検索サービスとして、東京都のオープンデータ利活用事例にも取り上げていただいています。事前にペイシェントフローをある程度調査してしっかり把握した上で、「どこのポイントを改善するとより役に立つだろうか」と意識してソリューション提供していたことが、うまく成果を出したケースかと思っています。
※4 オープンデータの定義などについてはこちら。
ペイシェントジャーニーを意識した医療機関検索サービスのポイント
ここからは医療機関検索サービスのポイントをまとめます。
そもそも健康医療情報はインターネットの検索ニーズと非常に相性が良く、どの年代も7~8割程度の方がインターネット検索する点は、今も昔もあまり変わっていない状況かと思います。
2014年度と2019年度には、「病院を探す際どのような情報を参考にしているのか」という、病院選びに関するアンケートが行われました。2014年度と2019年度の結果を比較したときに面白い傾向だったのが、「家族や知人の評判」や「かかりつけ医の紹介」といった要素は参考にしている割合が減っている一方で、「病院のホームページを確認する」あるいは「病院検索サイトを利用する」といったニーズは非常に増えている点です。
我々は創業以来ホームページ制作で医療機関を支援していますが、最後には位置情報が病院のホームページや病院検索サイトへ誘導していくうえで、非常に重要な役割を占めていると考えています。
従来から多種多様な医療機関検索サービスがありますが、以下の課題を抱えたサービスが散見されます。
- 地図が表示されない。
- 現在地検索ができない。
- 文字が小さい。
- ホームページのURLがクリックできない。
- 電話番号をタップしても電話できない。
冒頭でも「インターネットユーザーの漏れや離脱をどう防ぐかが大事」とお伝えしましたが、ユーザー体験としてスムーズに遷移できる動線をいかに用意できるかも、非常に重要なソリューションとなります。
ポイントは大きく3つあります。1つ目がモバイル時代に最適化したUI(「User Interface(ユーザーインターフェイス)」)になっているか。2つ目がインターネットで離脱を防ぐために非常に重要なポイントになるスピード感があるか。3つ目が実際の検索体験で、ワンクリックで検索できるか、地名や位置情報、地図から検索できるか、などが該当します。
ご存知のとおりスマートフォンがほぼ全世代に普及して利用率も非常に高まっており、我々が運営しているサイトでも、約6~8割はスマホからのアクセスです。仕事上PC画面を見る機会が多いとどうしてもPCを基準にして考える発想がまだ残っていますが、「モバイルファースト」が大切で、まずは「ユーザーは基本的にスマホからアクセスしている」と頭を切り替えていくとよいと思います。
また先ほどもページ表示の速さについて言及しましたが、逆に言えば表示速度が遅いとすぐに離脱につながるので、例え病院検索ページに誘導できたとしても、表示が遅ければユーザーは簡単に離れてしまいます。「いしゃまち病院検索」は開発をずっと進めている中で、できるだけ直感的に使いやすいデザインを目指しています。
ユーザー体験の部分で、「いしゃまち病院検索サービス」は医療機関を位置情報から検索できて、すぐにマップ上に表示されます。さらにカスタマイズされた病院検索サービスの場合は、あらかじめこちらで作成した診療・治療が受けられる病院の一覧リストを表示させているので、病院情報・医師情報のページから電話をかける、あるいは病院のホームページを見るといった遷移がスムーズにできます。
この「いしゃまち病院検索」は「くる病」で検索した時に出てくる協和キリン様の疾患啓発サイト(FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の情報サイト「くるこつ広場」)をはじめ、本当に多くのお客様に導入いただいています。疾患ごとにカスタマイズした形でお客様と一緒に情報提供できることが、大変ありがたいと思っています。まだまだ、このような疾患あるいは診療科ごとにカスタマイズした病院検索の潜在的なニーズは大きいと感じています。
この病院検索サービス導入時の注意点を一点挙げますと、日本製薬工業協会のガイドラインの中に、病院検索サイトでは自社製品の納入先のみの掲載はしないという注意事項があることです。この点に十分に注意しながら、お客様のコンプライアンスを遵守した形で提供していくことが重要と考えております。
第一部をまとめますと、ペイシェントジャーニーに則った病院検索サービスとして発熱外来の事例をご紹介しました。疾患ごとにペイシェントフローがそれぞれ異なるので、ここをある程度仮説ベースで作ってから課題解決の解像度を上げていくことが重要なポイントになると思います。それから医療機関検索サービスでは、使いやすいユーザー体験が非常に重要で、モバイル最適化やスピード、検索のしやすさが重要です。こういったことをしっかりひとつひとつ丁寧にやることで、受診率を上げる疾患啓発ができると考えています。